旧安田邸の活用を考えるシンポジウム報告

~近代洋風住宅の補強と活用について~

-地域文化財建造物の維持活用のために-

2012(平成24)年11月18日(日)、宝塚市雲雀丘にある旧安田邸の見学会と保存・活用を考えるシンポジウムが開かれた。

安田邸【雲雀丘と安田邸】 雲雀丘は、宝塚市の東端、川西市と接する長尾山系の南側斜面に開けた住宅地である。明治時代には果樹栽培が行われたりしていたこの地域が住宅地として開発されるきっかけは、1910(明治43)年、箕面有馬電気軌道(現阪急電鉄)が梅田-宝塚間を開通させたことにある。

大正時代になると第一次世界大戦の好景気を受けて、阪神間に土地開発ブームが起き、私鉄沿線を中心に宅地開発が広がる。ここ雲雀丘の住宅開発は、阿部元太郎が1915(大正5)年に10万坪の土地を購入したことに始まり、翌年から逐次宅地開発が進められていった。

「雲雀丘」という名前は、西に流れる滝ノ谷川にある「雲雀の滝」にちなんで、阿部がつけたといわれる。最初に設置された花屋敷駅から数百m離れた位置に設けられた雲雀丘駅は、住人の利便をはかるため、阿部が設置したものである。(1961(昭和36)年、雲雀丘駅と花屋敷駅が合併されて、雲雀丘花屋敷駅となった。雲雀丘駅は、現在の雲雀丘倶楽部の位置にあった。)

旧安田邸は、1921(大正10)年に建てられた木造3階建ての洋館で、宝塚市の都市景観形成建築物に指定されており、「ひょうごの近代住宅100」にも選定されている。この建物は、三井物産に勤めていた安田辰治郎氏の邸宅で、渡米経験で見聞したアメリカの住宅を手本に、自身で設計されたものである。この建物の所有者だった辰治郎氏の娘敏子さんが亡くなり、その遺志により、2010(平成22)年、宝塚市に寄贈され、いまは、宝塚市が管理している。

故安田敏子さんから遺贈された土地と建物の保存、活用にあたり、2011(平成23)年9月、自治会「コミュニティひばり」のなかに、「歴史的建造物復興’宝塚浪漫物語’」という組織が結成され、地域の有志、宝塚市政策室、有識者で構成される委員会が、建物の保存、地域文化の拠点としての活用にむけた協議を行っている。

見学会【見学会】シンポジウムを前に、旧安田邸の見学会が行われた。阪急宝塚線雲雀丘花屋敷駅から歩いて5分もかからないところにあって、約460坪ほどの広い敷地、大きな木立に囲まれたなかに建物が建っている。築90年あまりたつ建物は、雨漏りなど応急修理的な補修は行われているが、不等沈下によるとみられる1階床面の傾斜などあり、かなり傷んでいる。2、3階は立ち入りが制限されるほどで、抜本的な改修工事が急務である。

【シンポジウム】雲雀丘花屋敷駅近くにある雲雀丘倶楽部で、シンポジウムが行われた。

基調講演  まず、三重大学の花里利一教授から文化財建造物を地震災害から守る、ということに関して「構造診断の意味」という講演があった。  木造住宅が地震によって倒壊するいちばんの原因は、1階の壁の偏在や壁量の不足といったことがあげられ、とりわけ、建築基準法改正前の1981年以前の建物は、甚大な被害を受けやすい。

法律における基準は、災害によって大きな被害がでるたびごとに改正されてきた経緯があるが、文化財建造物の耐震補強の基本的な考え方は、ほかの建造物と同じで、人命に重大な影響を与えないようにすることが目標となり、そのためには、文化財としての価値を損なわないように、補強する必要があり、補強が困難な場合には、立ち入り制限などの措置をとらなければならない。

文化財建造物の耐震化を検討する場合、文化財的判断、構造物として工学的判断、建築物として社会的判断といった、3つの視点をふまえて、耐震診断、耐震補強計画が求められる。  町屋や社寺など具体的な建築形態ごとの構造特性や注意点、そして、地盤、軸組、接合といった部位別に補強方針が説明され、具体的な補強計画が示された。

基調講演次にNPO法人ソーシャル・デザイン・ファンドの代表理事金森 康氏より「安田邸の改修及び維持資金について」という講演があった。

建物を保存改修するにあたりいちばん肝心な資金調達について、どのような方法があるのか、という説明から、その調達可能性に言及し、金額の大きさから、財団の助成を求め、維持資金としては、寄付付き商品の売り出すといったことを、自身の経験をふまえ、活動紹介ビデオを駆使しながら説明された。

財団の助成を引き出すためには、財団助成の主旨を理解し、建物の活用をはからなければならない。  また、助成を受けた側のマナーとして、事業の維持、継続といったことも十分に考え、維持費の自主財源確保も含め考えておく必要がある、とのことであった。

財団助成の主旨に合致する旧安田邸活用に関して、子どもアート空間への改修、音楽や芸術を楽しむ「空間貸し」事業、といった提案された。

パネル パネル

ひきつづき、明石高専八木雅夫教授をコーディネーターに迎え、講演された花里教授、金森代表に加え、歴史的建造物復興’宝塚浪漫物語’の佐野行俊委員長、アーバンプランニング研究所の三宅 毅取締役に加わっていただきパネルディスカッションが行われた。

シンポジュウム シンポジュウム

佐野委員長からは、安田家の家系図の紹介などなされ、また、三宅取締役からは、雲雀丘地区の古い建物の建て替え、開発状況の説明や旧安田邸の建物調査のあらましについての話がなされた。

ハード面での建物改修、耐震化、ソフト面での資金調達、建物の維持管理に必要な継続可能な事業展開、お互い協力しあい、旧安田邸の改修、活用を進めていこう、という結論に達したのであった。