西宮市生瀬地区歴史的建造物調査

生瀬(なまぜ)は西宮市の北東部に位置し、旧くから京・大坂と丹波を結ぶ街道の宿駅として栄えた町である。往時は切妻造り厨子2階建て妻入形式の特徴をもつ町屋が街道に沿って低い軒を連ねていた。そのような妻入り町屋群としては丹波篠山が有名であるが、兵庫県下における最南端は生瀬とされている。

昭和30年代頃までは、旧街道に沿って宿場町の佇まいを色濃く残した町屋が建ち並んでいた。地区の詳細な民家調査が行なわれた1976(昭和51)年においても、23戸の町屋が往時の姿を遺しており、その詳細な図面と写真が報告書「西宮の民家」に纏められている。1995(平成7)年の阪神淡路大震災の影響もあり、現在では往時の面影を遺す民家は少なく点在するのみで、歴史ある生瀬宿の風景は僅かしか遺されていない。

1505-1本調査は生瀬地区の悉皆調査を行い、歴史的建造物を抽出調査するとともに「西宮の民家」所収民家の現状と変遷を調査把握することを目的とする。

調査は阪神文化財建造物研究会が担当し、代表を含む6名が調査に参加した。現地悉皆調査は3月7日に行い2班に分かれて実施した。事前に作成した調査シートに抽出した歴史的建造物の現況を目視調査により記録し、写真に納める作業を各戸について行なった。

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旧街道沿いの民家は概ね当初の想定通りであったが、小路を入った奥には隠れたような歴史的民家や蔵が在り思わぬ発見もあった。また小路に沿って旧い敷地割りの石垣と水路が遺されており、宿場町の町割を伝える遺構として貴重なものと思われた。

1505-5地区南東に位置する浄橋寺は鎌倉時代初期に開かれた名刹であり、寺所蔵の浄橋寺文書は生瀬の歴史を伝える貴重な史料(市指定文化財)となっている。境内には重要文化財の梵鐘や五輪塔などの石造建造物(市指定文化財)が遺されている。建物としては本堂、庫裏、開山堂、鐘楼等が在り、いずれも木造本瓦葺の歴史的建造物である。

調査の結果、「西宮の民家」所収民家23件を含み36件分の調査シートを作成した。調査シートに各々の建造物の現況を纏めるとともに、巻末に地形図上に建物位置を示した調査図を綴り込み成果報告書とした。(文責:藤井成計)