阪急川西能勢口駅周辺見学会記

地域の歴史文化遺産発掘の役割を担うヘリテージマネージャーの集りとして、今期は阪神北地区を重点的に調査・見学を行うことになった。その第1回目として川西市の中心地である川西能勢口駅周辺を対象に見学会が開催された。

6月2日昼過ぎ、駅前の再開発事業により整備された2階デッキにメンバー11名と神戸地区から参加の祝さんが集まり、当該地区の住民でもある前中さんの案内で冨士色素株式会社に向う。冨士色素は昭和13年創業の有機赤色顔料の専門メーカーである。最近では、我々にも馴染のあるインクジェットプリンターや筆記具用インクなどの製品を世に送り出している。

会社会議室にて、前社長で現在顧問をしておられる森禎良氏からお話しを伺う。森氏は工学博士でもあり経営と技術の両輪を担われたようだ。
0602-1地域社会の経てきた歴史、会社の歩んできた変遷、染料と顔料の違い、商品開発の工夫と化学式、偽札を判定する特殊ペン、川西多田銀山の観光開発提言等、多岐多様なお話を愉しく拝聴した。その後、工場施設と研究所を見学させて頂き、正門前で森氏を囲み記念写真。一同謝意を表して次の目的地である鶴之荘住宅地に向う。

 

0602-2鶴之荘は大正3(1914)年に開発された郊外住宅地で箕面有馬電気軌道(現阪急電鉄)の能勢口駅(現川西能勢口駅)の開設を契機に開発された。当時の阪急広報誌『山容水態』には鶴之荘の詳しい案内が掲載され、「都会に働き田園に住むは人生の至幸之に過ぎず」と郊外居住を勧めている。

 

0602-3鶴之荘住宅地に入ると野石で造られた幅広の側溝と繁茂した生垣が続く魅力的な景観が迎えてくれる。境界鋲をみると側溝は民地側にあり、各戸がそれぞれに趣きのある石橋を架け、情緒豊かな旧き佳き住宅地を演出している。ただ、屋敷が壊され現代住宅に建て替ったところはRC側溝にグレーチングで趣きは残念ながら継承されていない。

住宅地の一郭に掲げられている「鶴之荘景観保存宣言/景観を保存し次の世代に引き継ぐことを宣言する」を緩やかにでも担保できないものか考えさせられる。

住宅地内を各人各様の思いを話し合いつつ、カメラ片手に歩き廻った後は小戸(おおべ)神社に参拝。摂津国河辺郡の式内社であり、本殿は市指定文化財である。拝殿から参拝できたが立派な覆屋のため拝観叶わず。

夕方近く、川西能勢口駅に戻り見学会を終える。その後有志は駅近くのお店で意見交換・懇親会を催し、美味い料理と酒を味わいつつ有意義な愉しい時間を過ごし散会となる。(文責:藤井成計)